概要
ある人がある曲を聴いたときに、なぜその人はその曲を聴こうと思ったのか、そのモチベーションの推定を目的とした研究です。人がいつ、どの音楽を聴いたかを表す情報として、この研究ではLast.fmやApple Musicのような音楽配信サービス上での曲の再生情報を利用しています。
音楽を再生するモチベーションは様々だと思いますが、次の二つの要因は特に影響が大きいのではないかと仮定しました。
要因1. 日頃の音楽の好み
ロックが好きな人は日頃からロックを頻繁に聴いたり、懐メロが好きな人は日頃から懐メロを聴いたり、というように、あるジャンルの曲が好きだから聴いた、というものが該当します。
要因2. 特定のアーティストにハマった
自分が普段聴くジャンルからは外れるけれど、テレビであるアーティストの曲を聴いたことがきっかけでそのアーティストに一時的にハマってそのアーティストの曲を聴いたり、友だちからあるアーティストのアルバムを勧められて聴いてみたらハマってしまった、という場合に相当します。このように、日頃の好みとは無関係に、特定のアーティストにハマったことが理由で音楽を聴いた、というものが該当します。同時期に複数のアーティストにハマることも想定しています。
以上の二つの要因を仮定したうえで、あるユーザがある曲を再生したときに、それが要因1と2のどちらの影響によるものかを推定するモデルを提案しました。要因1だけを考慮したモデルはWWW’10で提案されており、それを拡張したモデルとなっています。音楽配信サービスの実際の再生ログを使った実験により、要因1だけを考慮したモデルよりも、要因1と2を考慮したモデルの方が優れていることを示しました。
提案モデルを使うことで、以下に示すような様々なデータを推定できるようになります。
1. 各ユーザの日頃の音楽の好み
ユーザAはロックとジャズを日頃好んで聴いている、ユーザBはヒップホップを日頃好んで聴いている、ということが推定できます。
2. 各ユーザがハマっているアーティスト
ユーザAはAKB48にハマっている、ユーザBはMr.ChildrenとONE OK ROCKにハマっている、ということが推定できます。
3. 時間と各要因の影響度の関係
各ユーザが音楽を再生した時間と各要因の影響力の関係を推定し、その結果を全ユーザについて集約することで、時間と各要因の影響度の一般的な関係を知ることができます。今回用いたデータでは、朝早い時間帯はハマっているアーティストの曲が聴かれやすく、夜の時間帯は日頃の好みに応じた曲が聴かれやすい、という結果が出ました。ここからは推測ですが、朝は忙しいので、好みに応じて色々な曲を聴く余裕がなく、ハマっている特定のアーティストの曲を聴いているのかもしれません。そのため、ユーザに色々なアーティストの曲を推薦するのであれば、夜の方が受け入れられやすい、ということもあるかもしれません。また、土日よりも平日の方が要因2の影響力が大きいという結果も出ており、こちらも、平日は仕事で忙しいからということが影響しているとも考えられます。
発表論文
- K. Tsukuda and M. Goto,
“Taste or Addiction?: Using Play Logs to Infer Song Selection Motivation”,
Proceeding of the 21st Pacific-Asia Conference on Knowledge Discovery and Data Mining (PAKDD 2017), pp.721-733, May, 2017. [PDF]
発表資料
PAKDD 2017で使用した発表資料。