この研究では、人がなぜ・どのように歌詞を閲覧するのかを分析しています。人がなぜ・どのように音楽を聴くのかを明らかにすることを目的とした研究はこれまでに多数取り組まれてきましたが、人がなぜ・どのように歌詞を閲覧するのかを明らかにした研究はこの研究が世界初です。
最近では、SpotifyやApple Musicなどの音楽配信サービスが提供するスマートフォン用アプリにおいて、ユーザが楽曲を再生中にその楽曲の歌詞を閲覧できる機能が実現されています。この研究では、その機能を使った歌詞閲覧行動に着目し、「なぜ」と「どのように」を調査しています。
「なぜ」を明らかにするために、206名を対象としたアンケート調査を実施しました。歌詞を見る理由として8種類の理由を用意し、各理由で歌詞を見ることがどの程度あるかを5段階(1:まったくない~5:よくある)で回答してもらいました。以下がその8種類の理由と結果です。
- 確認:歌詞を聴き取れなかった箇所が何と歌われているのか確認するため
- 理解:歌詞をより深く理解するため
- 歌唱:カラオケなど人前で歌うためではなく、自分で口ずさむため
- 構造:楽曲の構成(A メロ・B メロ・サビなど)を確認するため
- 練習:カラオケなど人前で歌う練習をするため
- 退屈:手持ち無沙汰を解消するため
- 言語:語学の勉強のため
- 作詞:作詞の勉強のため
歌詞を見る理由としては「確認」「理解」がポピュラーであり、「歌唱」「構造」「練習」も半数以上の回答者が「それなりにある」または「よくある」と回答していました。論文中では、各理由について「歌詞を見ると決めるのは曲を再生する前か後か」「歌詞の一部分だけ見るか大部分を見るか」といった詳細な分析もしています。また、歌詞を見る理由に応じてユーザを支援するための、歌詞閲覧や楽曲推薦の機能も提案しています。
「どのように」を明らかにするために、スマートフォンの音楽再生アプリから収集された2,300万件以上の歌詞閲覧ログを分析しています。基礎的な統計量の分析として、下の図のように1日の中での各時刻におけるログ数の分布などを調べています(図の「LyLog」は歌詞閲覧ログ、「Lastfm」は楽曲再生ログ)。
より発展的な分析として、同じ曲の歌詞を繰り返し見る行動も分析しています。ユーザがある曲の歌詞を見始めたとき、最初のうちは短いスパンで繰り返しその曲の歌詞を見るのですが、時間が経つにつれて、その曲に飽きたり、歌詞を覚えて見る必要がなくなったりすることで、徐々にその曲の歌詞を見るスパンが長くなっていくことなどを明らかにしています。
発表論文
- K. Tsukuda, M. Hamasaki and M. Goto
Toward an Understanding of Lyrics-viewing Behavior While Listening to Music on a Smartphone
Proceedings of the 22nd International Society for Music Information Retrieval Conference (ISMIR 2021), pp.705–713, Nov. 2021.
[Paper] [Poster] - 佃洸摂,濱崎雅弘,後藤真孝
人はなぜ・どのように歌詞を閲覧するのか:スマートフォンでの楽曲聴取時の歌詞閲覧行動分析
ARG 第17回Webインテリジェンスとインタラクション研究会(WI2),pp.67-72,2021年12月
[Paper] [Slide]
発表資料
ARG 第17回Webインテリジェンスとインタラクション研究会の発表資料。